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金木犀
第1章 五里霧中
「お前……いつの間に……」
「いや、さっきからいた」
女の方を見てみると、こくこくとうなずいていた。
そんなことはどうだっていいが、なんだ、その目は。
気に入らない。
「な、ナイフ……なんて、銃刀法違反だろ……」
「どうだっていいから、とりあえずのけ」
どうやら男は興が醒めたらしい。彼女の体から離れるとカチャカチャと音を立てて、ズボンを穿きだした。
女の方は、どこを見ているのかわからない、焦点のあっていない目で、床に座り込んだ。
机の上においてある下着を投げてもよかったのだが、今は機嫌が悪いので無視をした。
進路希望用紙は机のなかに入っていた。特にシワもなく、きれいなままだ。
「じゃあ、俺は帰るから。邪魔して悪かったな」
邪魔をしたつもりはあるが、謝るつもりなど毛頭なかった。しかし、謝ってしまったのはなぜだろう。
というか、このときの俺はもう少しイライラしていてもおかしくなかったと思う。イライラして、ついかっとなって、今日の朝、友達から返してもらったこのナイフで頸動脈を切ってしまってもおかしくはなかったのだ。
なのにそうしなかった。
出来なかった。
それは、ここにいる、ここにへばっている女の様子がおかしかったからだ。
異様といってもいい。
この男に犯されたのは何となく理解できた。
それは服の散らばり方や、男の手首についた引っ掻き傷などから簡単に推測できる。
ただ──。