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金木犀
第1章 五里霧中
とはいえ、今日会ったばかりの他人に、何かを話しかけるほど、俺はフレンドリーな性格をしていない。
少し興味はあるのだが、もしかしたら気のせいかもしれない。
昔から勘は鋭い方なのだが、まあ、勘違いということもあるだろう。
万が一、二人が恋人関係だとしたら、そんな風に興味を抱くことも失礼でしかないだろう。
どうだっていいし、きっとこれから二度と会わないだろう。
いや、同じ学校なのだから、すれ違ったりすることはあるのだろうが、それ以上でもそれ以下にもならないだろう。
きっとそうだ。
あんな地味な女子、何処にでもいるし、きっとすぐに忘れてしまうだろう。
名前さえも知らないのだから、記憶から抹消されてしまうだろう。
ただ、もやもやする。
好奇心が沸々と湧いてくる。
今まで、嫌いで嫌いで憎くて憎くて仕方なかった他人に、興味を持ってしまった。
いや、よく考えてみると、女子の裸を見たことに興奮してしまっているのかもしれない。
そうだ、この好奇心はきっと、性欲から溢れ出てくるものなのだ。
彼女に対しては何も感じていない。
本当に何も感じていない。
ただ、あいつらが性交をしていたので、性的興奮をしてしまったのだ。
そう思うことにしよう。
俺は進路希望用紙を握り、職員室に向かった。
この時はまさか、再び彼女に会うことになるとは思っていなかった。
彼女と、恋に落ちるなど、思っていなかったし、予想もしていなかった。
そもそも、再会した時は、一体誰だったか思い出せなかったくらいなのだ。
こんな奴いたっけ?くらいの認識だった。
でも、何処かで見たことがあるなーくらいの、感覚だったのだ。
彼女に会うのは今から一年後の話。
今よりも世界に対する認識が酷くなって、最も心が荒れていたと思う、高校二年生の話である。