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影に抱かれて
第14章 滅びる運命
「今また、彼女はあの塔にいるんです。ああ、こうしてはいられない。早く愛しい母上に会いに行かなくては……」
なぜジュールが突然そんなことを言い出すのか……そしてその顔に浮かぶ意味ありげな表情の不自然さに、気付く余裕は夫人にはなかった。
もう、限界だった。
「あの女……! よくも……」
怒りに我を忘れた夫人は屋敷を飛び出し、塔に向かって走った。土砂降りの雨に濡れても、稲光が光っても……ただ、あの塔に向かって。
ジュールとあの女を会せる訳にはいかない……!
許せない……許せない!
夫人を突き動かすのは、ただ、その思い。
ずぶ濡れになりながら塔の前に立つと、大きな木戸が彼女の行方を阻む。
息を荒げ、ドン……ドン! とこぶしで木戸を叩いていると、後ろからジュールが追い付いてきた。
ジュールの息は全く乱れていない。
「どうされましたか……マダム?」
まるで他人と話しているかのような小馬鹿にした物言い。
もう母親とは思わない……先ほど言われた残酷な言葉が、夫人の脳裏に蘇り、頭にカッと血が昇った。