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影に抱かれて
第2章 月と太陽
「そうか……。ああリュヌ、その枝はだめだ。ほら、先にいくにつれて極端に細くなって生長点が見られないだろう? いくら待っても蕾はつかないよ」
リュヌの切羽詰まった表情を見て、伯爵は明るい声を出して話題を変えた。
それはリュヌへの気遣いかもしれなかったし、使用人の落書きのことなど主が気に留めないのも当然のことかもしれなかった。
「どれ、鋏を貸してごらん……」
着ているシャツの袖をまくり上げ、リュヌの手から鋏を取るその姿はまるで伯爵らしくない気さくさだ。
手にした薔薇の枝に鋏を入れる口もとには愉しそうな笑みまで浮かんでいて……その端正な横顔はジュールにそっくりだった。
「私が若い頃は何とか家を建て直そうと必死だったんだよ。やれることは何でもやろうとした。植物の研究も……。ここの薔薇は香りが良いと評判だったからね。だから、庭仕事はお手の物だ」