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影に抱かれて
第5章 甘く、苦い……
そして、あの激しい行為……
今でもリュヌの身体の一部には、ジュールの唇の、舌先の、あの感触が残っている。
いくらあれが〝罪〟だったとしても、忘れられる訳がない――
真実を知った今でも、あれが尊い行為のような気がしてならなかった。
部屋に閉じ込められている筈のジュールは今、何を考えているのだろう? どういうつもりであんなことを……
「リュ―――――ヌ!!」
突然ジュールの声がした。
見ると、ジュールが使用人たちを振り切って泣きながらこちらへ走ってこようとしている。
大人びて、いつも落ち着いているように見えるジュールが人目もはばからず泣き叫んでいる姿にリュヌの心は震えた。
リュヌも叫びたかった。
ジュールの名を。
そして馬車を降りて、ジュールに触れたかった。
しかし夫妻やジャンの恩情を考えると、それはできない。リュヌはただ、窓から顔を出し、その想いを瞳に込めてジュールを見つめ続けていた。
涙が、溢れる。