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ドラスティックな恋をして
第7章 はじまり・・
「あ!ねえパンダ!私初めて見たわ」
のろのろと動く人の波に歩調を合わせながら依子のテンションは次第に上がっていった。
「息子が小さい頃連れてきたけど、その時はパンダがいない時だったのよね。
だから見損なっちゃってたんだけど、いやうれしい!」
声のトーンをあげる依子の横で、昌宏も動物の動きに歓声をあげた。
まるで小学生の頃の遠足の時のように、無駄に声をあげて興奮を表した。
「不自由な檻の中で自由に動き回る動物見てキャアキャア言う人間って、
動物からはどんなふうに見えるのかね」
その笑顔の温かさとは真逆の冷めた言い様には驚きの眼差ししか返せない。
「どーしてそう夢のない事言うかなあ」
呆れ顔の依子に平気で微笑み返す。
ほんとうにおもしろい男だ、と依子は鼻で笑ってからパンダに背を向けた。
その後ろをついてくる昌宏の、距離の近さは
時折背中にあたる麻の生地の感触が教えてくれた。
混雑に立ち止れば背中に温もりを感じるほど、すぐそばにいる。
その安心感は、夫のそれにも似ている、と依子はひそかな吐息を洩らした。