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・辿りつく 先には・
第17章 『距離』
準備をする間、目をつぶっていたい衝動にかられる。

鬱病を上がったばかりの今、感情の起伏は心のバロメーターを崩させるからだ。
聖が今だけは、私を望んでくれてるならそれを有り難く思うべきなのだと気持ちを切り替えたかったた。

だが複雑な自分の心がそれを許さず、怒りが出そうになり深呼吸をする。

逢いたくて来たのに、こんな物を見に来た訳ではなかった。
片っ端から投げ捨てたい衝動にかられるのを、ぐっとすんでで堪え手を握りしめた。

聖に悪意は常にない。それが聖の当たり前の日常だったからだ。女の人が常に彼を守り、彼を生かしている。

女はまた、聖から愛され生かされているのだろう。

頭では理解出来た、だが心が付いていけなかった。涙が出そうになるのを堪えた。こんな感情を持つ為に、遠い守山まで来た訳ではない。

いつもいつも、私には居場所がないのだろうか。私が少しでも安心し心を安らげる場所…

気付くと台所にあった、ふきんを強く握りしめていた手にひんやりとした聖の手が添えられていた。
見上げる事が出来ず、肩を震わせていた。聖の方を向かせられ、すっぽりと抱き寄せられてしまう。
「逢いたかった、ずっとこうしたかったよ絢音。今は何も考えないで、僕だけを見て。」

その胸の鼓動を聞いて、目を閉じた。怒りを鎮める。悲しみと苦しみを吸収してくれる魔王。

考えても過去は変えられない。あるのは未来のみなのだ。

聖との未来が長く続くはずはないと思いながらも、それを望んでいる自分を知る。

何故、昔から駄目な男ばかりに惹かれるのだろう。自分の母性の多さを恨めしく思ったのだった。

「これ、持って行く物?他には…」

漸く、声が出そうだなと思った。頷いた絢音。

「私がグラスを。これ借りていいの?」

ガラスのコップを二つ手に取る。本当は
叩き割ってしまいたかったが。

私にもまだ情熱が隠されていたのだなと思いつつ…

聖の後に付いて、部屋に入る。
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