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第17章 『距離』
辛く麗しい快楽の後にくれる優しさが欲しくて、何度でも求められる事を望む用になって行くのだ。
見えない鎖と見える鎖に両方、捉えられる事になる。

魔王の絶対支配の海に沈められ、抜け出す事が出来ない。

優しく優しく、髪を撫でられあまりの興奮状態とその愛の気持ちに心のバランスがついていけず涙は流れた。

背中をさすってくれる聖の手と、抱きしめてくれる体温が心を溶かす。

行為が終わった後に、こんな風に一度でも抱きしめられたらあの人を許せたのだろうか?

鬱病の時に掛けられた言葉は一生、忘れられない。お前は何を話し掛けても、返事がはっきり返らなくつまらないとまで言われた。

病気だと説明しても、見た目の衰えのない鬱病は相手には全く分からないものだったからだ。

聖のくれる被虐的な愛の絶対支配は、自分自身を満足させるだけでなく相手には絶対的安心をくれる事になる。

全てに従う事で、現実の世界から完全に離脱出来る。

そこにあるのは愛と快楽のみ。

いつまでも、いつまでもそこに漂っていたかった。幸せで温かいあの海に…

少しずつ気持ちが、落ち着いて来る。頭の上から髪に優しく、唇が触れている。
ゆっくり顔を上げると、おでこ、瞼、頬、唇とキスの雨は降り注いだ。

幸せをくれる、聖。今まで誰一人、こんな満足をくれた男性はいなかった。

抱きしめる腕に互いの力が交じる。唇が余韻を残し離れた。
頭は撫でられたままだ。

「愛しています、ご主人様。沢山の責め苦をありがとうございます。」

それに初めて、嬉しそうに微笑んだ。

「絢音がええ子、やからなぁ。」

胸に顔をうめて、話をした。

「今の人には、した後に抱きしめられた記憶がないの…終わった後は避けろとか、眠たいから話かけるなとか。今までこんな風に、愛された事がないと思う…」

口端の冷微は見られずに済んだ。

「女を愛し愛でない男はくずだ。終わった時こそ、身体は究極になっている。鎮めてやるまでが男のする事やから。」

「ありがとう、また泣いてごめんなさい…」
「良くある事や、身体と心のバランスが崩されるんやから。身体は快楽を求め、心には複雑な思いが沸く。最初だけや、それを越えればもっともっと気持ち良くなる。」


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