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第9章 『調教』
店員がその音に、いち早く気付いて箸を持ち現れ 言葉を掛けられる頃には左手は絢音の肩に添えられていた。持って来た時の、男性店員は寄り掛かる女性の頬が 赤い気がして 一声を気遣いしたのだ。

その声すら、まだ耳に入らなかった。とろんとした表情を目にし、ほくそ笑む聖。

「大丈夫でしょうか?お連れ様はお具合でも?」

肩を抱きながら、手は片時も離さず 店員を見上げた。

何故かその目に店員すらも、そわそわとした気持ちにさせられる。威圧力が目にあったからだ。

「少し暑くて、酒にあてられただけや。冷たい水を持ってきて。」

「席も満席になってしまってちょっと暑くなっていたかもですね、少し空調をお入れしますね。お水もすぐにお持ちします。お待ち下さい。」

「おおきに、頼むわ。」

遠くに漸く、聖の声が聞こえて来た。

耳元がまだ熱を持っている。声すらも降り注ぐ火の様だ。水のようなさらりとした、雰囲気と顔をしているというのに…

私達は 真逆な出で立ちなのだと、遠くに思った。火の姿をした私、心には水を持ち 魔王は水の姿をして 火の心を持つ。

水ならばその火を消せたはずなのに、火の回りが早過ぎる。

「お酒が入って、身体も心も緩やかになっていたから 美しい顔だったよ絢音。いい表情で逝けたやん、いい子や。本当に絢音に会えて 嬉しいわ。」

声が途切れ、途切れになってしまう。店の中で、こんな羞恥心を煽られ心が砕けてしまう。

「もう、本当に…貴方は狡い。そうやって涼しい顔をして、私をもて遊ぶ。何が、したいの?話をしたかったのよ…」

「僕は絢音と心でも、会話をしているつもりや。目を離さないのはそのせいもある。絢音の心はまだ騒めいているけど、身体は正直やから 気持ち良かったやろ?」

もうっと言って離れようとしたが、駄目だった。まだ身体に力が入らない。

これが調教なのかと知り、本当にどう太刀打ちするか分からなかった。身体が否応なく、聖の言葉に従うのを止められない自分を知って戸惑いを隠せなかった。
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