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第9章 『調教』
「水も飲み、残りを飲み干すなんて。さっき逝ったばかりなのに身体に血が回って酔いも回る。」

色々な経験により、なのか年上だからなのか本当に良く知る物事が多かった。

自分も体の構造は、知るつもりだったし本は良く読んでいた。だからこそ、会話が二人は尽きず飽きもしないでずっと話せたのだ。

水を持たされる、が離してくれない。

「手が震えてる、飲ましたるか?」

「もぅ、大丈夫だから。過保護っ、離して飲めない。」

にやりと笑って、左手で首筋におしぼりを添えてくれた。

冷たい水とひんやりとしたおしぼりで、身体の熱が漸く引けて どうやら火を消せたらしい。

「美味しい、酒やったやろ。僕は絢音のいい顔も見れた。」

その言葉に言い分を言おうと、ぐいっと横を向いたら、さっと唇をはらりと奪われ はっとして身を引いた。

顔を真っ赤にしたのを見て、頭を撫でた魔王。

「そうやって、ずっと涼しい顔をして 私を翻弄する気ね。私は負けず嫌いなのっ。」
「僕は賭け事的な、勝ち負けにはこだわらん。でも 直ぐに落ちるような女性は楽しゅうない、楽しみはじんわりがええ。さて、そろそろ満たされたし 行くか?」

心に燻りを残されながらも、手を取られた。

「満たされたのは、聖だけでしょう。」

「絢音もやろ、いい顔になってきたで。」

片手で顔を隠す。それに微笑みが、止まらなかった。純粋に可愛いとそう思って、撫でる手が出る。

懐かない猫を、飼い馴らしている気持ちだった。

会計を持ったのを、目にして慌てる。

「あっ、せめても食事は私が…」

「払えなくなったら 貰うわ、それまでは格好付けさせてぇ。」
「でも~」

「たまにやさかい、ええやろ甘えて。」

素直にお礼を、言う所だと思った。

「ありがとう、明日は本当に私が。」

「最初に言ったで、気負いせずに。明日は、明日や。美味しかったなぁ、また来ようや。」

「聖が意地悪をしないなら。」

「親切、言うて欲しいわ。絢音を女に戻して行くのが、楽しいし嬉しい。僕だけが知る、絢音。」

店から出ると夜風が、酔いの身体に心地好い。みなとみらいの夜景も綺麗だった。

確かに女にどんどんと戻される自分が、怖かった。

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