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祐子の欲望
第1章 祐子の眼力
二人は車内で、手紙の交換をするようになった
文明の利器を使わず古の方法で会話してる
相手の文体や文字の力みにその時の感情が表れ携帯文字では見えない内面まで見えて新鮮に思える

女性の文面は落ち着いた感じで考えて書いてるって分かる
文字に乱れも誤字脱字もない
女性の学の高さが分かる
祐子も慎重に言葉を選ぶうちに、もっと距離を縮めたいと思った

祐子は思い切って二人つきりで逢いたいと書いた
ダメもとで書いて渡した

その日の昼過ぎ、登録されていないアドレスからメールがきた
女性からだった

「土曜日ならあえますが」

文面から女性だと分かった
祐子も休みでこれといって用事もない
時間と場所を決めた
自分から逢いたい、と書いておきながら、実際に逢う事になり、急に緊張してきた
金曜の夜は一睡も出来なかった

約束の時間の30分も前に着いていた
時間も早く女性はまだきていないと思って俯いて椅子に座っていた
椅子が動いて時間を見た
まだ20分以上もある
ふと、横を見ると女性が座って携帯を見ている

「あ、おはようございます。ごめんなさい。気付かずに」
祐子から声を掛けた

「おはようございます。どうして謝るんですか?」

「分からなかったから」

「時間より早いんですから、謝る必要はないです」

「ありがとうございます。あ、私達、声を聞き合うのって初めてなんですね。不思議な感じです」

「そうですね。文字の声はいっぱい聞こえましたけど」

「ですね。……あ、私、祐子って言います。貴女の名前を教えてくれませんか?」

「私は、こはる、です。名前すら知らなかったんですね」

「まだまだ知らない事だらけです。こはるさんは何してる人ですか?」

「それは言えません。ごめんなさい」

「住む世界が違うって、仕事の事?」

「ごめんなさい。言えません」

「こはるさん。私ね、同じ世界の人なんて誰一人いないと思ってます。例えばね、私の世界にこはるさんが、ちょっと立ち寄る。そのちょっとの部分でもこはるさんと、同じ世界にいるって実感できると思うのね。こはるさんの世界に、私も少しでいいから踏み込んでみたいと思ったの。隠しておきたいなら、私は干渉しない。それがこはるさんの世界なんだろうからね」
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