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残像
第4章 脱走
その日は特に何もせず。
八尋に行くあてもないとわかっているのか、市九郎は出て行けとも何とも言わなかった。

八尋は、ただ、小屋でぼんやりとしていた。

その夜遅く、そろそろ寝ようという刻限になってから、市九郎は出掛けるようだった。

「八尋。俺はちと野暮用があってな。しばらく出かける。朝には戻るから、お前はここで寝てろ。ここなら滅多に人は来ねぇ」

八尋は頷き、そのまま眠る。

どのくらい経ったのか。

明方近く、バシャバシャと水の音がして、八尋は目覚める。

しばらくすると、ガラリと戸が開き、全身濡れそぼった市九郎が入ってきた。
白い息を吐きながら、ガタガタと震えている。

市九郎は濡れた着物を脱ぎ、身体を拭くと、乾いた着物に着替えるが、小屋には暖をとる場所も布団もない。

市九郎は八尋を抱き締めて、

「すまねぇ八尋、ちっとだけ、身体貸してくれ」

そういって床に転がる。
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