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契約は継続します──報酬はあなたの身体で【完結】
第35章 【三十五話】悪意
     □ □ ■

 そうやって、何度か寝ては起きを繰り返していくうちに、ようやく身体が元通りに戻ってきた。玲那が起きると、景臣は必ず側にいてくれた。

「景臣さん」
「どうしました?」

 今も微睡みから目が覚めるとやはり側にいて、甘い声で答えてくれた。

「わたし……どうしてしまったのでしょうか」

 玲那の問いに景臣は顔を歪め、視線を逸らした。

「景臣さん、教えてください」

 どうしてこんなにも身体が痛いのか。

「……あ」

 とそこで、玲那は思い出した。
 そうだ、景臣を探していて、階段を下りようとしたところで、だれかに押されて……。

「わたし……」

 そのときにはわからなかったけれど、今、思い出して遅れて恐怖を感じた。
 ぶるぶると震え始めた玲那に気がついた景臣は、慌てる。

「玲那、大丈夫かっ」

 遠慮するように肩に手が置かれ、顔をのぞき込まれた。
 黒に近い焦げ茶色の瞳を見て、景臣であることを実感する。

「わたし……っ」
「なにも怖いことはない」
「階段を下りようとしたところ……だれかに、突き落とされ、ました」

 そして、思い出す。赤い紙に、わざとらしく『あなたの命 ウバう』と書かれていたことを。
 あの紙を見た後、特になにもなかったので忘れていたけれど、玲那の元に脅迫状が届いていたのだ。
 あれは単に脅しではなく、だれかが玲那を害しようという表明で、それは現実に起こった。

「なにっ」

 景臣の表情が険しくなった。それを見た玲那の心臓はどくりと音を立てた。

「景臣さんが下の階にいるということだったので階段で向かおうと降りていたら誰かが近寄ってきて、押されました」

 どくどく、ざわざわとする心臓を無視して口にすれば、さらに険しい表情になり、眉間にしわが寄せられた。

「──わかった」

 景臣は険しい表情のままそれだけ言うと、握っている手に力を込めた。

「俺は玲那の護衛なのに、守れなかった。──失格、だな」
「そんなこと……!」
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