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契約は継続します──報酬はあなたの身体で【完結】
第9章 【九話】襲撃
 さすがにこれはおかしいと思った玲那は、大声を上げた。
 この部屋が事務所内のどこに位置していて、声を上げたところでだれかに気がついてもらえるのか分からなかったが、一か八かで大声を出したのだが、電話をかけるために廊下の端にいた景臣の耳に入ったようだ。

「玲那さんっ!」

 景臣の声が部屋の外から聞こえた途端、玲那に液体をかけてきた女は手に持っていたトレイを玲那に投げつけると、景臣とは反対方向へと走った。

「玲那さん、怪我はっ!」

 投げつけられたトレイは幸いなことに玲那にあたることはなく、空しくも床にけたたましい音を立てて落ちた。

「わたしは、大丈夫です」

 開け放たれたドアの向こうをすごい速さで走り抜ける景臣が見えた。
 玲那はドアに駆け寄り、音を立てて閉め、ドアから離れたソファの後ろが濡れていないことを確認して、座り込んだ。
 状況を把握した玲那の心臓は、遅れてばくばくと激しく音を立て始めた。

 今のは、なんだ。
 あれは……いったい、なに。

 遅れてやってきた恐怖は、玲那の心拍数を過度に上げ、血液がどくんどくんと音を立てて全身を駆けめぐっている。
 それだけにおさまらず、玲那の身体はぶるぶると震え始めた。
 今までも何度か、誘拐されるかもしれないという怖い目に遭った。だけどそれは玲那の父が雇った警備員のおかげで免れてきた。
 今回は、誘拐ではなく、悪意なのか。それともほかに目的があったのか。
 目的が分からず、見知らぬ人から液体をかけられそうになったことと、正体の分からない悪意に、玲那の動悸はなかなか治まることがなかった。
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