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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
それでも、手放したくないという強い衝動が突き上げてくる。腕に抱いたときのあの小さな温もりとやわらかな体を離したくない、ずっと傍に置いておきたいと思ってしまうのは、やはり自分が身勝手な人間だからだろうか?
俊秀は自らの執着を絶ち切るように大きく首を振り、大きな籠を背負うと、自らも狐が走り去ったのとは別方向に歩き出した。俊秀は薬草売り―判り易くいえば、薬屋である。自ら山深く分け入り、様々な薬草を採取しては町に運んで売り歩くのだ。
今日もいつものように薬草摘みに山を訪れていて、あの美しい狐に出逢った。艶(つや)やかな毛並みの綺麗な狐は、まだやっと子どもの域から脱したばかりといったところか。人でいうなら、十五、六の多感な少女期だろう。
俊秀は自らの執着を絶ち切るように大きく首を振り、大きな籠を背負うと、自らも狐が走り去ったのとは別方向に歩き出した。俊秀は薬草売り―判り易くいえば、薬屋である。自ら山深く分け入り、様々な薬草を採取しては町に運んで売り歩くのだ。
今日もいつものように薬草摘みに山を訪れていて、あの美しい狐に出逢った。艶(つや)やかな毛並みの綺麗な狐は、まだやっと子どもの域から脱したばかりといったところか。人でいうなら、十五、六の多感な少女期だろう。