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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 そこで、俊秀は一人、笑った。どういうわけか、あの小さな狐は〝少女〟だと俊秀は最初から思い込んでいる。雌ではなく雄だという可能性も十分あり得るはずなのに、自分は最初からあの若い狐が〝女〟だと信じて疑っていなかった。
 どうも、今日の自分は変だ。あの愛らしい狐をひとめ見てから、普段の自分なら考えもしないような途方もない空想に耽ってばかりいるようだ。
 こんなときに長々と森をうろついていては危険すぎる。遭遇するのが愛らしい狐なら良いが、下手をすれば、猪や熊に出逢う危険もあるのだから。いつもの冷静さも思慮深さも失っているらしい自分が身を守るための正しい身の処し方を思いつくのは難しいだろう。
 俊秀は賢明な判断を下すと、まだ半分も薬草が入ってはいない籠を大切そうに背負い、山を降り始めた。
 ―その日、秋の色に深く色づいた山の奥深くで彩里と俊秀は出逢った。
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