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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 湯に長らく浸かっていたせいで、彩里の白い膚は全体的に上気しているが、中でも右手首の傷痕だけはより鮮やかに―あたかも緋薔薇のように紅くくっきりと浮き上がっている。
 この傷痕は、本当に火傷の跡なのだろうか。湯に当たったせいで、余計に刃物によって抉られた切り傷の跡にしか見えなくなっている。
 やはり、彩里は俺に嘘をついている―。
 だが、どうして切り傷を火傷だとごまかさねばならない?
 彩里の深夜の外出とこの傷痕はどのように結びついているのだ?
 俊秀にとっては謎ばかりだ。
 しかし。眼前の魅力的な肢体を持つこの女は、頭の髪の毛ひと筋から脚の先まで、生身の人間の女そのものだ。桜色に染まった膚がピンと張りつめ、湯を弾いている。
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