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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 その人間との間に生まれた狐だけが無事に人間になれた唯一の例だけれど、何しろ、気の遠くなるほど昔の話だし、その狐は元々、半分は人間の血を引いている。言わば、半狐半人なのだ。だから、もしかしたら、生粋の狐族よりは人間になり易い傾向を持っていたとしても不思議はない。
 愛する男に我が子を託して生命を絶った狐の話は、今でも狐たちの間で語り継がれている哀しい話だ。だから、母狐たちは子どもたちが幼い頃から言い聞かせる。
―けして人間の男に心を寄せてはならないよ。
 その長らく狐族に伝わる禁忌を破り、彩里は俊秀と恋に落ち、結ばれた。その報いがいずれ来ないはずはない―。
 俊秀の傍にいられる幸せを噛みしめれば噛みしめるほど、彩里の心には一抹の不安が萌すのだった。
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