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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
幸いにも俊秀は今のところ、彩里の正体に気づいてはいないようだ。もっとも、何かしら勘づいてはいるようだけれど。
先の満月の宵は、大失態だった。裏庭で月明かりを浴びて戻ってきた時、良人は眠っているように見えたのに、実は眠っていなかった。
―どこに行っていたんだ?
訊ねてよこした俊秀の瞳には、明らかに疑念が浮かんでいた。
とはいえ、よもや、彩里の深夜の外出と実は狐であるという正体を結びつけているとまでは思えない。
が、それにしては、良人が右手首の傷痕にやけに拘ることにも彩里は不安を感じていた。もちろん、あの傷痕は、憎らしい猟師の罠にかかったときの傷の跡である。もがきにもがいて何とか罠から抜け出したものの、右脚は肉が深く抉られ、大量に出血した。
先の満月の宵は、大失態だった。裏庭で月明かりを浴びて戻ってきた時、良人は眠っているように見えたのに、実は眠っていなかった。
―どこに行っていたんだ?
訊ねてよこした俊秀の瞳には、明らかに疑念が浮かんでいた。
とはいえ、よもや、彩里の深夜の外出と実は狐であるという正体を結びつけているとまでは思えない。
が、それにしては、良人が右手首の傷痕にやけに拘ることにも彩里は不安を感じていた。もちろん、あの傷痕は、憎らしい猟師の罠にかかったときの傷の跡である。もがきにもがいて何とか罠から抜け出したものの、右脚は肉が深く抉られ、大量に出血した。