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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 あの直後、俊秀に出逢い、彼が手当してくれなければ、冗談でなく生命取りになっていたかもしれないほどの深手だった。
 火傷の跡とごまかしているが、俊秀はその場逃れでごまかせるような男ではない。
 ふいに身の傍を冷たい風が通り過ぎ、彩里は身を震わせた。ひと月ほど前、俊秀と出逢ったときはまだ秋たけなわであったというのに、今はもう初冬だ。
 森の梢を揺らす風は冷たく、明らかに冬の気配を漂わせている。もう直、森も山も深い雪に閉ざされ、春が訪れるまで、生きものたちはしばらくの眠りにつく。
 冬にしか採取できない稀少な薬草もあるにはあるが、自然の恵みの薬草を採って生計を立てている俊秀にとって、冬は辛い季節になる。
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