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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 山には、中腹辺りに掘っ立て小屋がある。それは俊秀の父が元々は建てたものであり、長らく使用されずに朽ち果てた状態になっていた。それを、俊秀がまた山に来るようになってから改めて建て直したのだ。
 いつもは朝早くに都を出て夜遅くに帰る行程だが、今日は女連れということもあり、小屋に一泊することにした。もちろん、満月の夜、山に彩里を連れてくるという目的のためでもある。
 俊秀は自らを落ち着けようと、もう一度深呼吸する。眼を瞑って細く小屋の扉を開けた。
 小屋の向こうに、月光を散りばめた森がひろがっていた。
 遠ざかる彩里の姿が見える。どこかにゆくつもりなのか。俊秀は慌てて小屋を飛び出た。
 彩里は飛ぶような速さで歩いてゆく。実のところ、今朝、都を出てからここまで来る道すがら、休み休み歩いていたか弱い女人と同じ人物とは信じられない。
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