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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 まるで何かが憑依したかのように真っすぐ前方だけ見据えて歩いてゆく。彼自身、度々の都と山の往復で、脚腰は鍛えているつもりだ。健脚をもって任じる俊秀でもついてゆくのが精一杯という速さだ。
 一体、どこまでゆくつもりなのだろう。
 そろそろ息切れし始めた時、漸く彩里の歩みが止まった。
 そこは、森の中でも樹々がなく、その部分だけがぽっかりと空き地のようになっている。長らく森に通っきている彼も、こんな場所があるとはついぞ知らなかった。
 空き地といっても、何もないわけではないらしい。小さな泉の周辺を取り囲むように秋桜が群生している。
 満々と蒼い水を湛えた泉に、蒼ざめた月が浮かんでいた。
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