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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 俊秀の声が途切れた。彩里が俊秀の顔の両脇に手を付いて、じいっと真上から覗き込んできたからだ。
「ね、俊秀。私、ずっと、あなたの傍にいても良いわよね?」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。お前は俺の女房だろう? 女房は亭主の傍にずっといるもんさ。それに、お前はいつか言ってたじゃないか。俺が出てゆけと言わない限りは、いつまでも俺の傍にいるって。自分で言っておきながら、もう忘れたのか?」
 彩里の可愛らしい顔が笑み崩れた。
「そう、ね。そうだったわよね」
 漆黒の濡れた瞳が見つめている。
 俊秀はふいに胸苦しさを憶え、眼を閉じた。
 瞼に昨夜の光景がありありと甦る。
 清かな月明かりを浴びていた美しい女の裸身。さざ波一つない泉。その周囲を囲むように咲き誇っていた季節外れの秋桜たち。
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