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第1章 忘れ得ぬ人

　これでは、まるで、人間の娘に嫉妬しているようではないか！
　もう、幾ら何でも彩里にも判っていた。
　信じられないことに、人間の男に恋をしたのだ。その事実を知った時、彩里は愕然とした。
　狐が人間相手に恋に落ちるなんて、あり得ない。また、けして許されないことだ。しかも、彩里は普通の狐ではない。
　九(ク)尾(ミ)狐(ホ)と呼ばれる妖獣は信じられないほどの長い刻を生き、まだ子どもの域から脱したばかりの若い彩里でさえ、既に二百年余りは生きている。長生きしたしても、せいぜいが八十年程度しか生きられない人間とは土台、生きる世界が違う。