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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
それでも、彩里はあの男を忘れられなかった。森に降りる夜の闇よりもなお深い漆黒の瞳も、綺麗に整った鼻筋から口許、すべてを思い出しては切ない溜息を何度も洩らした。
男に出逢ってから十日目、ついに彩里は住み慣れた巣穴から出た。そこは大きな樹の根許に自然にできた洞(ほら)で、彩里は亡くなった祖母とそこで暮らしてきた。むろん、祖母があの憎らしい猟師に撃たれて死んでからは、一匹だけだ。
祖母と同様、彩里もまた人間という存在、生きものを憎んでいる。それはそうだろう、彩里の大切なものは、すべて人間に奪われた。父と母は欲深くて残忍な猟師の仕掛けた巧妙な罠に仕留められ、殺されて皮を剥がれたのだ。
男に出逢ってから十日目、ついに彩里は住み慣れた巣穴から出た。そこは大きな樹の根許に自然にできた洞(ほら)で、彩里は亡くなった祖母とそこで暮らしてきた。むろん、祖母があの憎らしい猟師に撃たれて死んでからは、一匹だけだ。
祖母と同様、彩里もまた人間という存在、生きものを憎んでいる。それはそうだろう、彩里の大切なものは、すべて人間に奪われた。父と母は欲深くて残忍な猟師の仕掛けた巧妙な罠に仕留められ、殺されて皮を剥がれたのだ。