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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
―町は怖ろしい人間たちの住み処が集まっている。どんなことがあっても、けして脚を踏み入れてはならないよ。
 猟師に撃ち殺された祖母がいつもよく言っていた。両親が相次いで猟師に殺された後、彩里を育ててくれた優しい祖母だった。
 しかし、忘れようとすればするほど、男の笑顔はなおいっそう色濃く鮮やかに甦り、彩里を悩ませた。
 恋しさに耐えかね、危険だと知りつつ、ついに町に行く覚悟を決めたのは、たとえ生命を失うことになっても、ひとめあの人の貌を見たかったから。
 そう、誰もが嗤うだろう。狐が、人間の男に、恋をしたのだ。
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