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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 吐息をつくと、息が夜気に白く溶けてゆく。一月の夜風は身も凍りそうなほど冷え切っていたけれど、彩里は身体が冷えるのも厭わなかった。
 月明かりに照らされた庭を人影が大股で歩いてくる。性急な気性を表すかのように、忙しない脚取りだ。
 彩里は無表情に近づいてくる人影を見つめた。
 相手は廊下に佇む彩里に目ざとく気づいたようだ。
「どうした、このような場所に立っていては、身体が冷えるであろうに」
 がっしりとした身体つきに程よく筋肉がついた身体は到底、そろそろ五十に手が届くかという年代には見えない。浅黒い顔は存外に整っており、眼尻の皺もこの男がこれまで生きてきた年輪を相応に伝える程度のもので、さほど気にならない。
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