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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 俊秀は、いつになく持ち重りのする小さな巾着を後生大切に袖にしまい込み、思わず笑みを浮かべた。大の男が思い出し笑いをするなど、普段なら言語道断と言いたいところではあるが、今日は特別だと自分に言い聞かせた。
 善い行いは身を助けるとはよく言ったもので、全く思いもかけぬなりゆきだった。
 というのも、事の起こりはそもそも今日の昼過ぎに遡る。いつもの場所―町の大通りが途切れる四ツ辻に露店を出していた俊秀の前で、一人の老婆が派手に転んだ。元々弱い者や困っている者を見過ごしにはできない性分の彼のこと、すぐに老婆を助け起こしてやった。転んだ拍子に頭を地面に打ちつけ、軽い脳震とうを起こしているようだったので、急ぎ、売り物の中から気付け薬を選び、呑ませてやった。
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