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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
「別に、私はただ本当のことを申し上げているだけですよ。権力を笠に着て、人妻を横取りしようなんて男は、私は願い下げなものでね」
 彩里は吐き捨てるように言うと、立ち上がった。
「それでは、私はこれで失礼させて頂きます。もし、これから私の良人に余計な手出しをなされば、後宮におられるあなたのご息女のお生命が危うくなるかもしれませんよ?」
「そっ、そなた、一体、何者だ?」
 一介の町の薬売りの若妻が何故、後宮にいる娘のことまで知っているのか―。兵曹判書も根っからの女好きの馬鹿ではい。これで、若い砌は戦場を駆けめぐり屍の山を築いて武勲を欲しいままにした男だ。また、政治の中枢に位置するようになってからは、幾多の政変をかいくぐってきた海千山千の老獪な政治家でもある。
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