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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 鎖骨、胸の膨らみに、まるで雪に散った紅い花びらのように接吻の跡が刻みつけられていた。
 その痕跡が何を示すのか、彩里の身に何が起こったのかを想像するのは容易い。
「彩里、もう兵曹判書のものに―」
 思わず問いかけた俊秀に、彩里は烈しく首を振った。
「何もないわ。危ないところではあったけれど、結局、何も起こらなかった」
 俊秀は視線を泳がせた。彩里の白い膚に浮き上がる愛撫の名残をこれだけ見せつけられて、何もなかったと信じろと?
「お願い、信じて! 私、約束を守ったの。家を出る時、絶対にどんなことがあっても、あなたを裏切ったりしないと言ったでしょう。だから、約束は守ったわ」
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