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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
「今も言ったでしょう。卑怯な手を使って私を嬲りものにしようとした男は、もうこの世にはいない。今更、あなたが屋敷に乗り込んでいっても、無意味だわ」
 俊秀は黙って箪笥から彩里の着替えと、水に浸した手ぬぐいを持ってきた。差し出せば、彩里もまた黙って受け取る。
 彩里が背を向けて着替え、手脚についた血糊を拭う間、俊秀は何も言わずにただ見守っていた。
 自分のために、彩里が身の危険を冒し、人を殺めてしまった。一体、彼女に何と言えば良いのか判らない。兵曹判書が死んだのは不幸な事故であり、あの男の自業自得といえないこともないが、彩里にしてみれば、罪の意識を抱えているのは疑いようもない。
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