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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 後で、引き取り際、商人が耳打ちしたところによれば、明俊というのは、老婆の孫であり、商人にとっては息子になるのだそうだ。とはいえ、明俊当人はもう三年前に病で早世している。まだ二十三歳の若さであった。
 たった一人の孫を溺愛していた老婆は孫の死以来、塞ぎ込むことが多くなり、惚けが始まったのもその直後からだった。
―確かに、そなたは亡くした息子に生き写しだ。母が孫と間違えてしまったのも無理はない。
 商人もまた感慨深げに俊秀を見て頷き、薬代と言うにはあまりにも多すぎる礼金を俊秀の手に握らせた。むろん、俊秀はこんなに頂くわけにはゆかないと断ったけれど、商人は首を振った。
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