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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 予期せぬ儲けが入った俊秀は商人がくれた礼金をいつも持ち歩いている巾着に入れた。今日はもうこれで店じまいするつもりだ。
 店を閉める時間には少々早いが、そろそろ黄昏刻である。周囲にも片付けを始めている店がちらほらと見かけられた。健康と節約のために滅多に酒は呑まない俊秀だが、実は酒は嫌いではない。銚子を二、三本空けた程度では酔わないし、喧騒と活気の入り混じった酒場の雑然とした雰囲気も気に入っている。
 たまには酒も良いだろう。俊秀はそう思い、手早く片付け、荷物を背負い、いつになく弾んだ気持ちを抱えて歩き始めた。
 そのときだった。
 向こうから物凄い速さで男が駆けてくるのが眼に入った。
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