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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 都漢(ハ)陽(ニヤン)でもとりわけ人通りが多いこの界隈には、この時間、まだ大勢の人通りがある。その人波をかき分けるように走ってくる男はあちらにぶつかり、こちらにぶつかりしている。
 どやされても謝りもせず、ひたすら前方を見て疾駆しているのは、誰か大切な身内が急な病にでも倒れたからだろうか。
 と、俊秀は実に人の好さを発揮して、気の毒に思った。あんなに血相を変えるほど急いでいるのだから、よほど大切な人なのだろう。女房か、子か、それとも年老いた父親か母親か。見知らぬ男の大切な身内の無事を祈り、脇へ避けてやろうとしたその時、何を思ったか、男は俊秀目がけてそのまま突っ込んでくる。
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