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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 声を限りに叫びつつ全速力で追いかけるも、蛸男は見かけによらず、すばしこい。巨体はまるで弾む鞠のように遠ざかり、俊秀の視界から消えてゆこうとする。
「くっそ」
 俊秀は唇を噛みしめた。やはり、欲を出した罰が当たったのかもしれない。あの金は受け取るべきものではなく、商人に丁重に返すべきだったのだろう。
 俊秀は荒い息を吐きながら、立ち止まった。どうせ元から手に入れるべきではなかった金なら、あの蛸にくれてやっても惜しくはない。
 商人には申し訳ないが、あの大金は最初から手に入らなかったものだと思うことにしよう。元々、金に執着のない俊秀はあっさりと諦めた。
 と、彼の傍らをまたしても猛速度で駆け抜けた者がいる。
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