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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 あの男にこれまで多くの森の仲間が捕らえられ、無惨に殺された。あの男は彩里の大切な友達や家族を罠に掛けて捕らえ、皮を剥いだ挙げ句、毛皮を町で売り飛ばすのだ。狐の毛皮は、両班(ヤンバン)という貴族連中が冬の暖房着に好んで使い、高く売れるという。
 今まで十分用心していたはずなのに、とうとう彩里まであの男の仕掛けた妙な罠に足を取られてしまった。
 灼けつくような、ひりつくような痛みが絶えず前足を襲ってくる。この分では、もう走れそうにない。ここで力尽きて倒れ、あの憎らしい狩人の獲物になるのがもう自分に残された運命なのかもしれない。
 彩里が痛む脚を庇うように立ち止まったその時、突如として眼前に迫った緑の繁みがぽっかりと割れた。低木が重なり合うように自生した繁みの間をかき分けて姿を現したのは人間だった。
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