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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 かえって開き直った様子で傲然と返すのに、少年は鼻を鳴らした。
「ふうん? あくまでもシラを切ろうって魂胆? なら、良いよ。おじさん(アデユツシ)がそのつもりなら、僕も手加減は一切しないからさ」
 少年はひと纏めにした蛸男の両手に更に力を込めたらしい。傍から見ている者にとっては、少年が軽く握っているようにしか見えないのに、蛸男の顔はみるみる紅くなり、冗談でなく熱湯で茹でられているような顔色になった。
「わ、判った。判ったから、止めてくれえ。返せば良いんだろう、財布はちゃんと返すから」
 少年の二倍以上は図体のある蛸男が泣きながら悲鳴を上げた。
 少年はニヤリと笑い、さっと蛸の前に手のひらを出す。
「判ったんなら、さっさと出しな」
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