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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
 あまりの苦痛に喚き散らしながら、蛸男はやっと盗んだ巾着を少年の手のひらに乗せた。
「もっと早く素直にこうしてれば、痛い目に遭わずに済んだのに」
 少年は肩を竦め、巾着をおもむろに俊秀に向かって放り投げてきた。
「お兄さんもボウっとしてないで、もう少し気をつけた方が良いよ」
 色白の眼許の涼しげな少年である。その愛らしい顔立ちは女の子と言っても通りそうで、せいぜい十三、四くらいにすぎないだろう。
「判った。これからは気をつけるよ」
 俊秀は素直に頷いた。
「君のお陰で助かった。ありがとう、心から礼を言うよ。ところで、君の名前は?」
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