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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
男の眼(まなこ)は黒々と澄み渡り、森の奥深くに満々と水を湛える泉のように深い光を宿していた。
この瞳は正直な者だけに許されたものだ。野生に生まれ、生きる獣だけに、彩里には、この人間の若者が生来備えている好ましい性格をすぐに理解した。
恐る恐る近づいてきた彩里を抱き上げ、男は彩里の傷ついた小さな脚にそっと触れる。
「酷い傷だ。痛むかい?」
男は懐から小さな丸い入れ物を取り出す。男の手のひらに隠れてしまいそうなほどの大きさのそれを開けると、軟膏を丁寧に傷ついた前脚に塗った。薄緑色をした塗り薬はべったとりして、おまけに嫌な臭いが漂ってくる。
彩里が顔をしかめたのが判ったのか、彼は薄く笑った。
「変な臭いがするって言いたいんだろう? だが、これがよく効くんだ。だから、我慢しなければならないよ」
この瞳は正直な者だけに許されたものだ。野生に生まれ、生きる獣だけに、彩里には、この人間の若者が生来備えている好ましい性格をすぐに理解した。
恐る恐る近づいてきた彩里を抱き上げ、男は彩里の傷ついた小さな脚にそっと触れる。
「酷い傷だ。痛むかい?」
男は懐から小さな丸い入れ物を取り出す。男の手のひらに隠れてしまいそうなほどの大きさのそれを開けると、軟膏を丁寧に傷ついた前脚に塗った。薄緑色をした塗り薬はべったとりして、おまけに嫌な臭いが漂ってくる。
彩里が顔をしかめたのが判ったのか、彼は薄く笑った。
「変な臭いがするって言いたいんだろう? だが、これがよく効くんだ。だから、我慢しなければならないよ」