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九尾狐(クミホ)異伝
第2章 突然の求婚
 迷っている暇はない。とにかく身を隠さなければ。そう思って、咄嗟に元来た道を引き返そうとしたのが、かえって眼についてしまったのだ。
「おい、そこの者!」
 野太い声が呼び止めるのと、俊秀が走り出したのはほぼ同時だった。逃げれば余計に怪しまれることくらいは判っていたけれど、この場合、とにかく逃げるしか道はない。
「待て、止まれ」
 呼び止められても、無視して、ひたすら走り続けた。やがて、酒場の見える場所まで戻ってきて、俊秀はホッと胸撫でおろした。
 どうやら、役人どもも追跡は諦めたようだ。普段、ここまで必死に走ることはないので、息が上がっている。
 荒い呼吸を繰り返していた時、突如として前方から一人の男が出現した。
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