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九尾狐(クミホ)異伝
第2章 突然の求婚
「不躾なことを訊きますが、俺は前に、あなたに逢ったことがありますか?」
 胸に浮かんで消えない疑問を口にすると、娘はうっすらと微笑んだまま首を振った。
「いいえ。お逢いするのは今夜が初めてです」
 初対面なのに、既に自分を知っているかのような口ぶりの娘に違和感は憶えたものの、彼女が生命の恩人であることに間違いはない。
 と、俊秀の視線が娘の腕に吸い寄せられた。
 いかにも若い娘らしい雪膚の手は依然として彼の手を掴んだままであった。娘の右手首には布が幾重にも巻かれている。
「怪我でもしたのですか?」
 訊ねると、それまで落ち着き払っていた娘が息を呑むのが判った。
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