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九尾狐(クミホ)異伝
第2章 突然の求婚
「あの―、誰かいませんか?」
 何度声をかけても反応がないので、仕方なく扉を開けて室内を覗き込んでみても、娘の姿は見当たらない。
 留守なのだろうか。
 そろそろ夕刻に差しかかろうという時間帯である。買い物に出かけたのだろうかとも思った。とはいえ、まだ互いのことをろくに知りもせず、訪ねてくるのはこれが二度目である。まさか、相手の留守中に上がり込むわけにもゆかず、とにかく外で待つしかないと覚悟を決めた。
 所在なげに佇む俊秀を時折、通りかかる人がちらりと横目で見てゆく。中には本当にこの近所に住む者もいるようで、つい先刻通りかかった中年の女は二つ右隣の家に入っていった。
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