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九尾狐(クミホ)異伝
第2章 突然の求婚
 あまり人眼については、まずいのではないかと、ふと不安になる。娘がどういうつもりで〝また来て欲しい〟と言ったのかまでは判らないけれど、親しくなる前から、男が通っているとあらぬ噂を立てられて困るのは彼女の方だ。現に、二つ右隣の家の女は、手を引いている五歳くらいの子どもが母親にしきりに何か話しかけているのにろくすっぽ返事もせず、意味ありげに俊秀を見ていた。
 かれこれ四半刻は待ってみても、娘は帰ってこない。諦めて帰るか、思い切って上がり込んで待つか。しかし、勝手に入り込んで図々しい男だと思われるのも嫌だ。
 このまま逢わずに帰るのは、もっと嫌だった。途方に暮れかけた俊秀の耳を、賑々しい銅鑼の音が打った。ふと興味を誘われ、彼は吸い寄せられるように銅鑼の音が流れてくる方へと歩き始めた。
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