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九尾狐(クミホ)異伝
第2章 突然の求婚
 皆、先刻の見事な剣舞の興奮が冷めやらず、踊らずにはいられないといったようだ。むろん、娘も輪になって踊り狂う人々に混じり、手脚を器用に動かして踊っている。
 俊秀は剣舞以上に、娘のその生き生きとした姿に魅せられた。まさに水を得た魚のように、娘は実に嬉しげに躍っている。
 透き通るように白い膚がうっすらと上気し、黒い瞳が潤んでいる。俊秀は躍りの輪に入るのも忘れて、ただただ大勢の中の一人―あの娘だけを見つめていた。
 漸く躍りが終わり、人々が散っていった後、俊秀はそっと娘に近づいた。
「嬉しそうに躍っていたね」
 いきなり声をかけられた娘はピクリと身体を震わせた。愕かせてしまったのだと気づき、俊秀は笑った。
「ごめん、びっくりさせてしまった?」
 俊秀を見上げた娘は、安心したような笑みを浮かべる。
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