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九尾狐(クミホ)異伝
第1章 忘れ得ぬ人
「おっ、おい。待て、待ってくれ」
何故か、若者の声が酷く淋しげに聞こえ―、一瞬、再び立ち止まりそうになる自分の弱い心を懸命に叱咤する。ともすれば体は声の方に引き寄せられそうになるのに、意思の力をかき集めて前方へと走った。
あの男は人間なのだ。大好きだったお婆ちゃん(ハルモニ)が何より怖れ、嫌っていた人間なのだ。どんなことがあっても、心を許してはならない。
彩里は祖母や両親が人間にどれだけ無惨な殺され方をしたかを必死で思い出そうとしたが、優しげな若者の笑顔はいっかな瞼から消えてはくれなかった。
何故か、若者の声が酷く淋しげに聞こえ―、一瞬、再び立ち止まりそうになる自分の弱い心を懸命に叱咤する。ともすれば体は声の方に引き寄せられそうになるのに、意思の力をかき集めて前方へと走った。
あの男は人間なのだ。大好きだったお婆ちゃん(ハルモニ)が何より怖れ、嫌っていた人間なのだ。どんなことがあっても、心を許してはならない。
彩里は祖母や両親が人間にどれだけ無惨な殺され方をしたかを必死で思い出そうとしたが、優しげな若者の笑顔はいっかな瞼から消えてはくれなかった。