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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 と、視線に気づいたかのように、狐が振り向いた。俊秀は狼狽えて扉を元どおりに閉め、布団に潜り込む。
 ほどなく裏口の扉がキィと軋んだ。かすかな物音に続き、ひそやかな気配が伝わってくる。隣の夜具に妻が身を横たえるのが判った。背を向けた格好で布団を被っている俊秀の胸はかつてないほど早鐘を打っていた。
 一体、何が、どうなっているのだろう?
 裏庭で見た紅い眼の狐と夜半、急に姿を消した妻。月明かりを浴びている狐に見惚れている中に、いつしか妻を探しにゆかねばならないという意識も失せてしまっていた―。
 俊秀は突如として身を起こした。
「あなた(ヨボ)、どうしたの?」
 彩里が黒い瞳を向けてくる。
 俊秀はできるだけ普段と変わらないようにふるまいながら、さりげなく問う。
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