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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 満月の夜を境に、俊秀の心には溶けないわだかまりが残った。
 それは、あの夜、彩里が突如として姿を消して、少しく後で何食わぬ顔で戻ってきたこと、更には彩里がいない間、裏庭で狐を見かけたことと深い関係があった。あの二つの事実は表面上は全く関連性がないが、その実、水面下の深い部分で繋がっているのではないか。そんな気がしてならなかった。
 いずこかから平然と戻ってきた彩里は、あの時、俊秀が寝たふりをしていれば、恐らく何もなかったように自分もふるまったに相違ない。深夜の外出など一切存在しなかったかのように、彼を騙すつもりだったのだ。
 彩里が自分を騙す!! そんなことは考えたくもないけれど、彼女の取った一連の行動を考え合わせてみれば、残念だが、妻が最初から彼を騙す―少なくとも外出について一切告げるつもりはなかったことだけは、はっきりしている。
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