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溺愛〜あたしだけの王子様〜
第3章 溺愛
―――――――――――

「社長!
SS物産【エスエスぶっさん】からお電話です」秘書然としたスーツ姿の男がドアをノックする。

三宅宝石【みやけほうせき】の本社ビル。


関西の主要都市にビルを5つ持つ三宅宝石。


社長室では『SSはもう切っていい。
株価・総売上高ともに下降しとる。ありゃ要らん』
と坊主頭の名物社長があっさりと1会社を潰した。



「―――しかし社長…」
何か言いたげに、
秘書が二言目を発した。



坊主頭の社長の目がギョロッと動く。

『―――何か間違っとるかね?オノダよ。ん?』
社長・三宅の眼光は冷たく鋭い。
痩せ型で背が高い三宅。体格が良い訳ではない。が、社を背負って立っているという自信や自負が威圧感となり体から醸し出されていた。54歳。社会の中枢にいるという自覚から、堂々とした落ち着き……

オノダと呼ばれた秘書は背筋を伸ばした。
「いえ……失礼致しました…」
一礼して社長室を去る。




社長椅子にどっかりと腰を下ろすと、
男はネクタイをキュッと締め直し『要らんものは消す。
――なぁ、碧?
お前もそう思うだろ?』
社長室の壁には、日本を代表する油絵画家に描かせた愛娘・碧の肖像画が掛かっていた。

先日も娘の厄介事を闇に葬ったばかりだ。



関係を持った男を刺してしまったという。


『まったく………
いつまでも手のかかる娘だ………』
思わず口元が綻ぶ。

宝石商である三宅は警備会社にも人脈がある。
秘書を使い、
警備会社の重役を呼びつけた。
そして碧の言う東京郊外の別荘地へ赴かせ、
死体を自殺に装うように指示をした。
警備会社の重役には半身不随の母親がいる。『母親専用の個人施設を建設してやろう』と2億円を提示したら、まるで忠犬の如くいいなりに動いてくれた。

もちろん警察幹部とも懇意にしている。
念のために札束を握らせておいた。


『愛する娘のためなら、
何でもしてやるさ。
半身不随の母親を思う気持ちと違わないからなぁ』



数日前にも、
突然『たーくんから万が一訊かれたら、パパは軽い体調不良ってことにしてね』と連絡があった。


隆臣なんぞと話をするわけもなかろうに…………



万が一万が一と、
昔から心配性の娘。
碧はいつまでも変わらない。






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