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凍える月~吉之助の恋~
第5章 第二話 【鈴の音】   二
 怖かった。無性に怖かった。蠍と異名を取るほどの以蔵の底知れぬ怖ろしさを心の底から思い知らされた一瞬だった。
 止めようとしても慄えは止まらなかった。 そんなお絹を吉之助が引き寄せた。
「心配には及ばねえ。俺がお前と腹の子を必ず守ってやる。以蔵には絶対に指一本触れさせやしない」
 吉之助が囁いた。お絹は泣きながら頷いた。
 吉之助にこうして抱かれていても、お絹は以前のときのような嫌悪感は全くなかった。
 むしろ不思議な安堵感が今、お絹を包み込んでいた。昔、子どもだった頃、父に抱きしめられたときのような不思議な感覚だった。
 恐らく原因は吉之助の変化によるものだったかもしれない。以前の吉之助は、お絹を欲望の対象としてしか見ていなかった。だが、今の彼は、そんなものは微塵もない。
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