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凍える月~吉之助の恋~
第5章 第二話 【鈴の音】 二
お絹が初めて見る穏やかな笑顔だった。お絹を犯したときの、あの酷薄な笑みしか知らぬお絹にとっては愕きである。
「良いか、必ず鈴を肌身離さず持ってろよ」
吉之助は幾度も言い聞かせるように繰り返した。
その日からお絹は一日に何度も窓から吉之助の姿を探すのが日課になった。時折窓を覗いて吉之助の姿を見て、安心するのだ。
吉之助は大抵、家の前の道沿いの樹下にひっそりと立っていた。たまに姿が見えぬときは、お絹は親にはぐれた子のように心細さを感じる。早く戻ってきて欲しいと思う一方、やはり吉之助は江戸に帰ったのだと自分に言い聞かせた。その癖、しばらくして吉之助の姿をいつもの場所に認めたときは嬉しくて、心の底から安心できた。
「良いか、必ず鈴を肌身離さず持ってろよ」
吉之助は幾度も言い聞かせるように繰り返した。
その日からお絹は一日に何度も窓から吉之助の姿を探すのが日課になった。時折窓を覗いて吉之助の姿を見て、安心するのだ。
吉之助は大抵、家の前の道沿いの樹下にひっそりと立っていた。たまに姿が見えぬときは、お絹は親にはぐれた子のように心細さを感じる。早く戻ってきて欲しいと思う一方、やはり吉之助は江戸に帰ったのだと自分に言い聞かせた。その癖、しばらくして吉之助の姿をいつもの場所に認めたときは嬉しくて、心の底から安心できた。